引張強さとは?
引張強度とは、破断限界をみるためのパラメータで降伏点とあわせて確認します。材料の持つ強度をみる為の指標のひとつです。簡単にいうと引張強さとは、両サイドから材料を引っ張り、どれくらいの力でちぎれるかを数字で表したものです。

引張強度は、機械・設備等の工業製品を設計する上で、考慮しなければならない機械的特性の一つです。硬さや圧縮強度と同様に大切な特性になります。
対象の部品には引っ張り方向に、最大どのくらいの荷重がかかるのか想定し、その荷重で破断しない材料を選定する必要があります。材料が破断しない目安となる機械的特性が引張強度です。下図はそれをグラフに表わしたものです。
材料に力を加えていくと、左右方向に伸びて変形し最終的には破断します。最終的には破断してしまうので当たり前と言えば当たり前のことですが、そこに至るまでの応力のかかり方に注目して頂ける引張強度について理解が深まるかと思います。
引張強度と降伏点?
実際は引張強度にあわせて設計するというよりは、降伏点を基準にすることが多いです。
それ以上の力を加えると変形した状態から元に戻らなくなる値の降伏点を基準にする理由としては、多くの機械・設備や部品等において、変形して元に戻らなくなる(永久ひずみ)と意図した性能が損なわれてしまうからです。

材料は図にある弾性限度までは、加えた荷重を止めると、材料が伸びていても元の長さに戻りますが、弾性限度を超えると、元に戻ることができず変形してしまいます。よって、設計する場合は、この弾性限度内に収まる歪量となるように設計する必要があります。
当然ですね。変形や寸法変異があっては部品や材料の持つ本来の性能を満たすことは難しいです。よってここが設計者にとって一番大事なポイントなります。
さらに荷重を加えていくと、上降伏点に達します。上降伏点に達したあとは、材料に亀裂が入り一旦は荷重が抜け、下降伏点に至ります。この状態は材料が伸びきってしまった状態になります。この状態ではもう元には戻りません。
その後、さらに荷重がかかり最大の応力まで達します。この状態を「引張強度」といいます。従って、引張強度はその材料が持つ、限界の強度となります。

設計においては引張強度ではなく、弾性限度がより重要であることをご理解頂けたかと思います。また、応力のかかり方は材料のよって違いますので機械的特性を十分把握して下さい。さらに安全率を考慮すれば、より安全な設計になるかと思います。
「硬い=引張強度が高い」じゃない!!
ここでひとつ注意したいことが「硬い=引張強度が高い」とはならないことです。ほとんどの材料については、引張強さと圧縮強さが同じような特徴をもつことが多いのです。
コンクリートのように圧縮には非常に強いが、引張強度は高くないという硬くて脆いとされる硬脆材料(こうぜいざいりょう)というものがあります。
このような事からも、どちらの方向に力が加わる設計となっているのか等、様々な可能性を考慮し検討する必要があります。
ただし、鋼材の場合は、鋼材の引張強度 ≒ 圧縮強度で取扱されるケースが非常に多いです。また、材質とその熱処理方法等で硬さが決まり、強度材で使用される物は硬さ(硬度)と引張強さは比例関係にあります。
硬さと脆さの共存方法!
ちなみに、鉄筋コンクリートはコンクリートの中に鉄筋を入れた構造になっていますが、これは引張強度が弱い(脆い)コンクリートの中に、引張強さが強い鉄鋼材料を入れることで弱点を補いかつ長所を活かすために活用されています。
金属材料の引張強さがわかる!【引張強度一覧】
■金属材料の引張強さ一覧表(代表例)
金属の種類 | 材料記号・熱処理 | 引張強さ(T/MPa) |
---|---|---|
純鉄(99.96%)焼鈍し | – | 196 |
一般構造用圧延鋼材 | SS400(焼鈍し) | 450 |
冷間圧延鋼板 | SPCC | 270以上 |
機械構造用炭素鋼 | S45C(焼入れ焼き戻し) | 828(690以上) |
機械構造用炭素鋼 | S45C(焼ならし) | 570以上 |
機械構造用炭素鋼(硬鋼) | S55C(焼入れ焼き戻し) | 780以上 |
ピアノ線 | SWP-V | 2010から2210(線径1mm) |
クロム鋼 | SCr430(焼入れ焼き戻し) | 780以上 |
マンガン鋼 | SMn438(焼入れ焼き戻し) | 740以上 |
マンガンクロム鋼 | SMnC420(焼入れ焼き戻し) | 830以上 |
クロムモリブデン鋼 | SCM440(焼入れ焼き戻し) | 980以上 |
ニッケルクロムモリブデン鋼 | SNCM439(焼入れ焼き戻し) | 1765(980以上) |
ニッケルクロム鋼(SNC815) | SNC815(焼入れ焼き戻し) | 980以上 |
ダイス鋼(合金工具鋼) | SKD6(焼入れ焼き戻し) | 1550 |
ばね鋼 | SUP7(焼入れ焼き戻し) | 1230 |
マルエージング鋼 | 350級(焼鈍し、時効処理) | 2403 |
析出硬化系ステンレス鋼 | SUS631(焼き戻し、時効処理) | 1225 |
マルテンサイト系ステンレス鋼 | SUS410(焼入れ焼き戻し) | 540 |
フェライト系ステンレス鋼 | SUS430(焼き鈍し)) | 450 |
オーステナイト系ステンレス鋼 | SUS304(固溶化処理) | 520以上 |
インコロイ800 | NCF800(焼き鈍し) | 520 |
ねずみ鋳鉄 | FC材(鋳造したまま) | 450 |
ニッケル | Ni(焼き鈍し) | 335 |
インコネル600 | NCF600(焼き鈍し) | 550 |
ハステロイX | (焼き鈍し) | 775 |
無酸素銅 | C1020(完全焼き鈍し) | 195 |
7-3黄銅 | C2600(完全焼き鈍し) | 280 |
6-4黄銅 | C2801(完全焼き鈍し) | 330 |
りん青銅 | C5212 P(完全硬化) | 600 |
洋白 | C7521 P(完全硬化) | 540 |
ベリリウム銅 | C1720(完全硬化) | 900 |
純アルミニウム | A1085 P(焼鈍し) | 55 |
アルミニウム合金(耐食アルミ) | A5083 P(焼鈍し) | 345 |
ジュラルミン(アルミ合金) | A2017 P(T4, 常温時効) | 355 |
超ジュラルミン(アルミ合金) | A2024 P(T4, 常温時効) | 430 |
超々ジュラルミン(アルミ合金) | A7075 P(T6, 焼入れ焼き戻し) | 573 |
マグネシウム合金 | MP5(製造したまま、板材) | 250 |
純チタン | C.P.Ti(焼鈍し) | 320 |
チタン合金 | 60種、6Al-4V | 980 |
このように比較してみると、その違いがハッキリとわかりますね。金属材料を選ぶときは硬いだけではなく、この引張強度も十分に検討する必要がありますね。
良い材料を選び、いいモノづくりをしよう!