金型はどのようにして作られるのか?
射出成形を行うには欠かせない非常に高価な金型。その作り方を見る機会はあまりないかと思います。金型の製作には職人の技術やノウハウがかかせませんし、現在の金型のそのほとんどは高精度な機械で加工されています。今回はその射出成形金型の作り方をご紹介します。
おおまかな流れとしては
設計 ⇒ 部品加工 ⇒ 仕上げ・組立 ⇒ 成形トライ
このような工程で金型が作られます。
設計

金型仕様の決定
まずは、仕様の決定です。初めにすることはゲートの位置やパートラインなどを決定します。企画台数から製品の取り数を見立て、アンダーカットなどの形状から大まかなレイアウトを決定します。それと同時にランナーのレイアウトも検討し、ランニングコストを考えホットランナー等にするのかも考慮します。この時点で金型サイズが大きくなりすぎたり、思いのほか小さくかったりということがありますので、そのあたりを考慮し取り数を決定します。この検討結果をもとに算出した金型費用と製品単価のバランスをみて大まかな仕様が決定します。
- 成形品の取り数
- ゲート位置&およそのパートライン
- ホットランナーorコールドランナー
また、製品によっては流動解析を行い、成形品の外観やソリなどの課題を事前に検討します。
設計作業
仕様が決まれば実際の設計業務にあたります。まずは製品周りの構成を決定します。仕様決めの段階では詳細まで配慮が難しいので、この時点で製品に対する課題を抽出し、製品部の仕様が最終決定します。製品周りの構想が決まればモールドベースと呼ばれる金型の外回りの部品の構想を行います。小物用の射出成形金型はモールドベースという枠に製品部の入れ子も組み付けているものが主流になります。
射出成形金型の設計は3次元CAD
この設計作業は射出成形金型においては、そのほとんどを3DCADを使用して行われています。しかし、工業製品において図面での情報伝達は必須ですので3DCADで作成した3Dモデルから、2DCADデータに落として製図を行う手法が取られています。加工は3Dデータを参照して行いますが公差は2D図面で確認するやり方が一般的ですが、作業効率を上げるため3Dモデルのフェースに色付けをし、公差を管理するやり方も広まっています。
- 3Dデータの作成
- 図面の作成
- 部品リストの作成
3Dデータの作成、図面の出図、そして部品リストを作成すれば設計作業の終了です。
部品加工

金型部品にはオーダーメイド製作が必要な部品と市販されているものを購入する部品に分けられます。一般的には製品部の入れ子やモールドベースが製作する部品となります。部品の加工はそのほとんどが3次元CADCAMを使って作った加工データが使用されています。
入れ子
入れ子の形状は成形品を転写しているため複雑な形状なりますし、部品同士がずれてしまうと成形品に段差ができてしまうので寸法精度も要求されます。したがって、高精度のマシニングセンタや放電加工機、ワイヤー放電機、研削盤、旋盤などが使用されます。使用する材料は製品部分は摩耗が激しいので焼き入れ材やプリハードン鋼(焼き入れをしなくてもある程度硬度が高い材料)が主流です。
一般的な加工の手順としましては、
荒加工(フライス、マシニングセンタ) ⇒ 焼き入れ ⇒ 研削 ⇒ 仕上げ加工(マシニングセンタ、放電加工、ワイヤー放電)
焼き入れが必要なかったり、逆に焼き入れ材料から加工する場合もあり、部品に合わせた工程設計が必要です。また、ここで出てくる工程のほとんどに3次元CADCAMが使われており、マシニングセンタの加工パスから放電加工の電極設計などCADCAMは欠かせないツールです。ワイヤー放電の加工パスは一般的には2次元CADCAMを使用します。
モールドベース
モールドベースは金型の動作に関わる部品です。金型が開いたり閉じたりする過程で意図した動作ができるように設計されています。入れ子を組み付ける必要があるためサイズは製品部よりも大きくなるため、製品周りの入れ子を加工する機械での加工は困難です。サイズが大きいため加工量も多くなるため重切削に向いた大きな機械を使って加工をします。マシニングセンタ、平面研削盤、ガンドリル、ラジアルボール盤、フライス盤などの機械を使って加工します。どの機械を入れ子を加工する機械より1周りも2周りも大きくなります。材料は特殊な場合を除き、S50C相当の材料が使用されます。
一般的な加工の手順としましては、
ガンドリル ⇒ ラジアルボール盤 ⇒ 荒加工(マシニングセンタ) ⇒ 研削 ⇒ 仕上げ加工(マシニングセンタ)
モールドベースでは金型の温調用の水穴やヒーター穴をあける必要があるため、ガンドリルを用いて加工します。側面からの加工になるため、加工の深さが深すぎてドリルが届かないためです。ただ、小さい金型でしたらラジアルボール盤でも可能な場合もあります。モールドベースの仕上げはマシニングセンタで行い、入れ子のように放電加工などを使用することはほとんどありません。コストの面からも必ず切削加工ができる形状が必須となりますので設計の際にはコーナーRなどをつけて対応しましょう。
仕上げ・組立
すべての部品がそろえば、最後は職人による仕上げ作業です。金型は部品と部品が組み合わさるのでミクロン単位の調整が必要になってきます。また、部品の仕上がりは加工の跡が残りますので切削仕上げ、研削仕上げ、放電仕上げなどで見た目も変わってきます。その不均一な仕上がりを職人によるミガキ作業でキレイに仕上げます。
成形トライ
金型が出来上がれば成形機に取り付けて成形品サンプルを取り出します。成形品はどれだけ正確に予測し設計したとしても成形品を取り出せば必ず意図しない寸法で仕上がる箇所が出てきます。金型はそのような仕上がり箇所を検証し部品を修正して作り上げていくものです。いくら図面通りに作ったとしても一回で完成しないところが金型の難しいところです。
金型を段取り良く作るにはこの成形トライの回数を減らすことが非常に重要です。成形トライが増えることで金型のバラシ・組立作業が増えることはもちろんのことですが、修正に必要な部品加工も増えてしまいます。そのためには事前の検討をしっかり行い修正加工を減らせる、そして修正加工が必要な場合でも簡単に行えるように設計しておくことが大切です。
トライ&エラーが良い製品を作る第一歩
以上が射出成形金型が作られる流れになります。